北海道のニュースNews

アイコン北海道のニュースHokkaido News

“マザーキラー”と呼ばれる『子宮頸がん』子育て世代を中心に年間1万人以上の女性が発症 3千人の患者の命を奪うウイルス感染が原因の病“防げるがん”の予防の現在地とは

2024年09月26日(木) 15時01分 更新

主にウイルスで感染することで発症する、子宮頸がん。予防のためのワクチンもあり「防げるガン」とされています。

しかし、ワクチンの接種率は低調なままです。そんな子宮頸がんの予防の現在地を取材しました。

◇《子育てに追われる日々…まさかの病名》
いまから9年前、カラダの不調を感じた女性は、診察を受けた病院で、思いがけない病名を知ることになりました。

かなさん(45)
「元々、生理不順だったので不正出血が度々あったんですよね」

「それで、そんなに重要視していなかったというか、問題がある感じだと思っていなくて、ちょっと放っておいたんですけれど…」

「まさかガンっていうのは思っていなかった」



女性は当時36歳。子宮頸がんの初期段階にあると判ったのです。双子の娘たちはまだ4歳、育児に追われるさなかのことでした。

かなさん(45)
「最初に、早期だったら子宮を取らなくていいんですか?と尋ねたんですが、(医師は)”それはどうかな…”って感じだった」

「本当に“なんでこうなっちゃったんだろう”ていう感じで、どうしようかなというか、もし(私が)死んじゃったら、子どもたちを残して、どうしようかなって思いました」

◇《"マザーキラー"とも呼ばれる「子宮頸がん」》
女性は、再発や転移のリスクも考え、子宮を全摘する手術を受けました。しかし、女性にとって、辛く、厳しい日々が終わったわけではありませんでした。

退院してしばらくは、月に2回のペースで、術後の経過を確かめる検診を受けました。その後、間隔を置くようになったものの、受診のたびに、再発や転移に怯えたと話します。

かなさん(45)
「(手術から)8年が過ぎたので、いまは1年に1回になったんですけれど…最初は1か月に1度や3か月に1度だったので(検診に)行くたびに、やっぱりドキドキはしていました」

子宮頸がんを発症する女性は、年間1万人以上。毎年、3千人ほどが、命を落としています。

30代や40代の子育て世代の発症が多く、“マザーキラー”とも呼ばれる病です。

ただ、早期の段階では、自覚症状が現れにくいことも、子宮頸がんの特徴です。

そのため、育児や仕事に追われる日常の中で、“どうもおかしい…”と不調を感じ、受診したときには、すでに手遅れというケースも少なくありません。

かなさん(45)
「何かこれは明らかに違う、何か絶対に病院へ行かないと駄目だと思って行ったんです」

「(定期健診に)もうちょっと早く行っていたら、子宮の全摘出は免れたんじゃないかとは、すごく思います」

◇《子宮全摘手術から9年…いまも辛い日々》
足首などがむくむリンパ浮腫は、手術の影響です。

子宮の全摘出に伴って、リンパ節を切除。リンパ液の流れが滞るようになり、右足に浮腫が起き、手術から9年が経ったいまも、女性を苦しめています。

かなさん(45)
「日に日に足首のサイズが違ってきて、本当にこれを見るのが結構つらい…」

「本当に、何かが起こって、こっち(左)のサイズに戻ってくれないかと、毎日思っているんですけれど」

「薬を飲んだら、腫れが引くとかいうものでもないし、大元のリンパ節がないから、結局、うまく循環できなくてというものなので…」

「それまでタイツは嫌で履いていなかったんですけれど、もう嫌だとか、そんなレベルじゃなくて」

「本当に、これ以上よくはならないので、悪くならないようにしていくしかなく」

「病気は何でも苦しいと思うんですけれど、すごく苦しい病気だし、本当にのちのちまで、引きずるというか…女性としての自信もなくすというか」


◇《主にウイルス感染が原因で発症…予防のためのワクチンも》
子宮頸がんは、主に性交渉から感染するHPV、ヒトパピローマウイルスによって発症する“進行性のがん”です。

このため、特に発症リスクが高いタイプのウイルスに対し、予防が期待できる、3種類のワクチンが用意されています。

北大大学院 医学研究院 産婦人科学教室 渡利英道教授
「原因を取り除ける、予防できるがんっていうのは、実はそんなにないはず」「(ワクチン接種で)デンマークとかイングランドも80%くらい(発症の)リスクを下げています」

「接種するなら10代の、いわゆる性交渉歴が、まだ少ないだろうという年齢に打った方がいいっていうデータがある」



国は2010年から、子宮頸がん予防を目的に、HPVワクチン接種を勧める、積極的な呼びかけを始めます。

さらに2013年4月からは、小学6年生から高校1年生までの女性を対象とした、定期接種を開始しますが、状況は一変します。

◇《「子宮頸がん」予防のHPVワクチンを巡って…》
HPVワクチンを接種した後、体調の激変を訴える人たちが相次いだのです。国は、因果関係は不明としつつも、接種の呼びかけを中止。

その結果、世代によって、接種率に大きな開きが生まれました。



いまも体調の激変は、ワクチン接種による副反応だとして、125人の原告が、国と製薬会社を相手に裁判を続けています。

そうした中…2年前、動きがありました。

エナ大通クリニック 鈴木友希子院長
「全体の9割近くは、HPVワクチンで予防ができるんですけれど、100パーセントにはならないんです」「がん検診が要らなくなるわけではないので、そこはご注意ください」

札幌市内のクリニックを23歳の女性が訪れていました。HPVワクチンの接種が、来院の目的でした。



国は2021年の秋、体調激変とワクチン接種について、因果関係は証明されておらず、ワクチンには高い有効性があると、事実上の安全宣言を出しました。

そして、ワクチン接種を勧める呼びかけを2022年4月に再開。

また、接種の機会を失った人を救済するため、1997年度から2007年度にかけて生まれた女性を対象に、費用の全額を公費で負担する“キャッチアップ接種”も始めました。

北大大学院 医学研究院 産婦人科学教室 渡利英道教授
「17歳から30歳で幅を持たせた世代の半分くらい(発症の)リスクが落ちているというデータになっている」

「キャッチアップでワクチンを打つことで、(子宮頸がんを)予防できる人が、一定数いるだろうということ」

◇《接種の機会を逃した世代への救済策も…しかし》
36歳のときに、子宮頸がんの発症がわかり、子宮の全摘出する手術をうけた女性。当時4歳だった双子の娘も、いまは中学生になりました。

かなさん(45)
「(子宮頸がんは)ならないものなら、絶対にならない方がいいと思うので、それを予防できるワクチンがあるんだったら、やっぱり、打った方がいいと…私は思います」

しかし、キャッチアップ接種は、北海道内の初回接種率が、わずか4.7パーセントと低調で、全国平均の6.1パーセントを下回っています。

札幌のマチでHPVワクチンについて尋ねてみると…。

(Q.HPVワクチン接種の予定は?)
19歳女性
「特にない」

22歳女性
「副反応とかが怖いイメージで(受けるかどうかは)半々」

いまも、学校や医療機関などから発信される、子宮頸がんに関する情報は、決して多くはありません。

◇《"知らなかった…"を減らしたい 当事者世代の取り組み》
そんな中、HPVワクチンを自分ごととして捉えようと活動する大学生たちがいます。

Vcan代表・大坪琉奈さん
「自分が活動することによって、医者じゃなくても誰かの命を救えたらなって…」

滋賀県の医大生、大坪琉奈さん。HPVワクチンに関する知識を広める活動を進める学生団体、Vcan(ブイキャン)の代表です。

Vcan代表・大坪琉奈さん
「HPVワクチン3種類あって、2価・4価・9価という種類があります」

子宮頸がんの原因や治療法、予防のためのワクチンの存在など。接種のリスクも含め、ワークショップなどを開催し、自分の身体を守る知識を中学生や高校生に伝えています。

Vcan代表・大坪琉奈さん
「やっぱり、いま自分たちが健康体の状態で、将来、かかるかどうかわからない子宮頸がんだったり、中咽頭がんだったりとかを予防するために、接種するのが、HPVワクチンなので…」

そんな大坪さんが、キャッチアップ接種を利用したのは2年前。

自分の身体を守る大切さを、医学生として伝えていく活動の中で、“正しく情報が届いていない”“無関心”という課題を実感しています。

Vcan代表・大坪琉奈さん
「私たちは、接種を推進している団体ではなくて、知らないということに対して、すごく課題感を持って、Vcanの活動は始まった」

「“知らなかったから…打てなかった”っていう方たちを減らすために、活動しているところになります」



“防げるガン”子宮頸がんをどう予防するのか。若者世代に、選択が迫られています。

◇《HPVワクチンは半年間に3回の接種が必要》
森田絹子キャスター)



国が、積極的なHPVワクチン接種を勧める呼びかけを取りやめた結果、接種の機会を失った人を救済する措置として、今年、17歳から27歳の女性を対象に、接種費用を全額公費で負担する“キャッチアップ接種”が現在、進められています。

ただし、来年3月末が期限となってます。

HPVワクチンは半年かけて3回を接種するため、すべて無償で打つためには、今年9月末までの接種が必要です。

取材した札幌のクリニックでは、今年6月ごろから駆け込みで接種が増えているということです。

◇《「子宮頸がん」…ワクチンと定期検診が“予防の両輪”》
堀啓知キャスター)
主にウイルス感染で発症する子宮頸がんは、予防が期待できるHPVワクチンもあることから“防げるがん”と言われますが、ワクチンを接種すれば、100パーセント予防できるというわけではないとのことです。

早期発見や、がんが発症していないことを確認するためには、定期的な検診が有効とされています。



“防げるがん”、子宮頸がんと、どう向かうのか。それを考えるためにも、十分な必要な情報に触れる環境を作っていくことが、まずは、身を守るためのカギになるのではないかと思います。