今日ドキッ!トークライブ 「高齢ドライバー事故ゼロ」
2019年11月23日・「厚真町総合ケアセンターゆくり」にて開催
昨今、高齢ドライバーによる交通事故が相次いでいます。これを受けて75歳以上のドライバーに対する認知機能検査が強化されたり、免許の自主返納がクローズアップされたりしています。しかし車がなければ暮らしが成り立たない地域があるのも現実です。お年寄りが安全に暮らせるまちづくりにはどんな視点が必要なのでしょうか?「今日ドキッ!」のキャンペーン企画「高齢ドライバー事故ゼロ」を担当している竹村研人記者と高齢者の認知機能に詳しい伊古田俊夫医師(勤医協中央病院・名誉院長)が、11月23日(土)厚真町で公共交通の在り方や加齢に伴う運転への影響について語りました。(司会 堀啓知「今日ドキッ!」キャスター)
※トークライブの模様は動画(Youtube)でご覧いただけます
[動画はこちら]
高齢ドライバーによる事故は実際に増えているの?
竹村 全国の死亡交通事故は2008年からだんだん減少していますが、75歳以上のドライバーが起こした事故の割合は増えています。去年1年間に75歳以上のドライバーの死亡事故は、全国で460件あります。そのうち事故を起こす前の免許更新時に受けた認知機能検査では、半数のドライバーが「認知症のおそれ」、または「認知機能が低下のおそれ」と診断をされていました。今の制度では、「認知症のおそれ」や「認知機能が低下のおそれ」があったとしても「認知症」と診断されない限り、免許は更新できます。
認知機能が低下すると運転にどんな影響があるのか?
伊古田 車の運転には、道路の異変や障害物、歩行者に気付いて避ける「注意力」と、風景を立体的に捉える力が必要です。しかし注意力・立体を把握する力は、いずれも加齢とともに衰えてきます。そして視野も狭くなります。小学生は200度近く、顔の真横より後ろの方まで見えていますが、年をとると160度くらいに視野は狭まります。さらに動体視力も鈍ってきます。こうしたことから認知機能が低下すると、車間距離を適正に取れなくなったり、道路幅と車体の感覚が鈍ったりしてきます。高齢者の事故で意外に多いのが路肩から転落する事故です。
認知機能を自分でチェックことはできますか?
伊古田 このチェックリストであてはまるものが3つ以上あったら、役場の保健師さんとかに相談したほうがよいです。また2つ重なっている五角形を下の空欄に書き写す検査もあります。これは初歩的な図形テストで、これが書けなくなったら運転は非常に危ないと考えられています。
伊古田 時計の時刻を描くテストもあります。これは10時10分を描くテストですが、75歳以上の運転免許の更新時に義務化されている認知機能検査の一つです。自分で書いたものが酷いものになっていたら、診察を受ける心構えが必要です。
高齢ドライバーをめぐってどんな相談がありますか?
伊古田 高齢のドライバー本人から「そろそろ運転やめたほうがいいですか?」という相談は、まずありません。相談のほとんどは、家族が心配して「運転をやめさせたいが、全然応じてくれない」というものです。また「免許返納なんて冗談じゃない」という人ほど、運転が危ない状態に陥っています。大事なことは、元気なうちにそろそろ運転免許を返納しようという雰囲気を、社会や家族の中で作っていくことです。とはいえ、年齢で一律に決めるのは現実的ではありません。退職などの人生の節目で区切りをつけることが大事だと思います。自分を顧みることができなくなるのが認知症の特徴ですから、元気なうちに、運転をやめる時期を決めておくことが大切です。私も次の免許更新時には70代半ばになるので、今年の更新で最後にしようと思っています。
とはいっても、地方では車が欠かせないのが現状ですが…?
伊古田 いきなり明日から運転はダメだといっては、生活に支障をきたします。おすすめしたいのは、夕暮れ時は控えて昼間だけ運転するとか、通い慣れた場所のみにするとか、運転に条件を付けることです。乗り慣れた車で、明るい時間帯、通い慣れた場所や道路のみ運転するというルールを作ることも有効だと思います。
竹村 富山県では、全国から注目を集めている事例があります。「やわやわ運転」と言って、運転のルールを自分で決めて、自ら宣言をするという取り組みです。
竹村 高齢ドライバーは宣言事項10個のうち3つ選んで宣言します。それをカードにして車のダッシュボードに置き、ドライバーは運転前に心に刻んでからハンドルを握ります。今年6月に始めてから137人が宣言していますが、今のところ宣言者の中に人身事故を起こしたドライバーはいないということです。運転前に宣言カードを確認するだけで、かなり意味があると現地の警察署は手ごたえを感じているようです。ちなみに「やわやわ」とは富山弁で「ゆっくり」という意味です。
誰もが運転を卒業するときが必ずあります。公共交通がないと生活できません。
竹村
運転を断念した人たちへの生活支援は、地方に行けば行くほど重要です。すでに行政や福祉、民間の交通事業者が連携しながら取り組んでいる地域もあります。天塩町の「ライドシェア」は、個人が自家用車で、同じ目的地に乗って行きたい人を連れて行ってくれるシステムです。町がドライバーと利用者を仲介します。利用者が負担するのはガソリン代だけです。
厚真町の福祉バス「めぐる君」は、利用者のところに迎えに来てもらい目的地まで連れて行ってくれるシステムです。ただ地域によって便数が限られていたり、認知度が浸透していなかったり課題もあります。
旭川市の「貨客混載」は、宅配貨物と乗客の両方を載せて運行する取り組みです。バス会社が国の規制緩和を利用して宅配業者と手を組んで始めました。乗客は一回100円で乗れますが、100円だと採算が取れません。運営は自治体からの補助金が頼りです。
伊古田 こういうコミュニティ交通一本では支えきれないので、例えばタクシーチケットを配布して緊急事態にはそちらを使っていただくとか、目的に応じた支援策を複数準備することが必要だと思います。
《質疑応答》
来場者 年齢とともに運転に対する自信があると答える人が多いという話がありますが、人生に対する自信と重なっているのでは?
伊古田 自信は経験を重ねるとついてくるものなので、そういう見方はできると思います。ただ実際、事故を起こして車体がボコボコへこみ、傷ついていても、事故を認めない高齢者も結構います。
来場者 死亡事故起こした75歳以上のドライバーのうち「認知症のおそれ」、または「認知機能低下のおそれ」がある人が半数近くいるということですが、追加でチェックテストを受けさせるなどの手立てはできないのでしょうか?
伊古田 現在、警察庁がやっている認知機能検査は、医学的に見て完璧ではない部分もあります。認知症の人が検査を合格してしまうこともたびたびありますし、問題のない人が「認知機能低下のおそれ」と判断されることもあります。今後、テスト自体を改善する必要があると思っています。
最後に…
伊古田 高齢ドライバーの事故は、認知症の人だけが起こす問題ではありません。医師の研究では認知症の人は、認知症ではない人より事故を起こす確率は3倍ほど高いというデータがありますが、認知症じゃない人も事故を起こします。年齢を重ねると瞬発力だとか、判断能力、アクセルとブレーキの踏み間違い、そして間違いに気づいて訂正する能力が落ちています。普段から自分の能力をきちんと把握することが必要です。
竹村 運転を卒業した人の生活をどうするか?地域の公共交通をどうするか?子どもたち、孫たちの世代が暮らし続けるためにも、持続可能な交通体系の在り方とは?など、制度とまちづくり両面での議論が重要です。
堀啓知 高齢ドライバーの事故にかかわる問題というのは実は、世代を超えた課題です。また地域の将来を考えるのに大きな柱にもなる課題です。安心して暮らせる地域の将来のためにも、多くの皆さんがこの話題に関心を持っていただけたらと思います。