利用者のために奔走する70歳介護ヘルパー、需要の低下で町は子育て支援委託も…介護報酬引き下げで自身の給料カット「地方のこと考えていない」
2025年03月09日(日) 08時00分 更新
自宅で生活したいと願う高齢者を支える訪問介護。しかし今、多くの事業者が経営に苦しんでいます。
そんな中、利用者のために奔走するヘルパーを追いました。
■訪問介護…苦境の事業所
足の指の間まで丁寧に洗っているのは、佐藤郁子(さとう・いくこ)さん(70)。
道東の厚岸町の訪問介護事業所「おはなさん」の代表取締役です。
・訪問介護事業所「おはなさん」佐藤郁子 代表取締役(70)
「おはなさんとは長いもんね。長い付き合いだよね」
・利用者の男性(72)
「うん、7年目かい」
ホームヘルプステーション「おはなさん」の事業所を立ち上げたのは、18年前。
夫と娘、60代と70代の従業員の合わせて5人で、利用者約20人を訪問介護しています。
この日は、朝8時前に事業所を出発。途中、除雪が行き届いていない山道を通り、車で走ること約30分。
一軒目の家に到着です。
・佐藤郁子さん
「おはようございます!」
1人暮らしをする92歳の男性。薬を飲むのを忘れがちなため、佐藤さんが気遣います。
・佐藤郁子さん
「(Q.いつもどれくらい品数を作る?)1回に7品」
・佐藤郁子さん
「(今回の利用者さんは)みそとか好き。みそ汁を必ず自分で作っている」
・利用者の男性(92)
「うちの家内の実家がみそを作るところだった。だからみそだけは何も不自由しなかった」
手際よく料理を済ませると、次はお風呂を磨き、さらに部屋の隅々まで掃除機をかけます。
・利用者の男性(92)
「やっぱり助かる。元気なうちは1人でもやったが、92歳になったら大変なこともある」
■訪問介護「需要の低下」で、町は育児支援を委託
しかし…
・佐藤郁子さん
「去年何月かな。もうリセットというか、もうやめよう、廃業しようと」
理由の1つは、「需要の低下」です。
佐藤郁子さん
「うちはヘルパーはいるが仕事がない。これからもまた仕事が増えるわけではないと思う」
厚岸町では、利用者の「数」は増加していますが、利用する「回数」は減少しています。
介護の必要性が高く、利用回数が多かった高齢者が施設に入居することで、訪問介護の中心は、利用回数が少ない高齢者に変化しているためです。
そこで町が目をつけたのは…
赤ちゃん「ギャー」
佐藤さんは、生後半年の双子を持つ母親の、育児や家事を手伝いに来ました。
介護だけでなく、育児にも奮闘します。
・佐藤郁子さん
「これこうだったけ?」
・子育て中の女性
「いつもどうやってやっています?」
・佐藤郁子さん
「一回しかやったことない」
町は、介護を必要としないまでも、日常生活に支障がある高齢者を支援する事業や、子育て中の親の家事や育児をサポートする事業を行っています。
そしてその業務を、訪問介護事業所に委託しているのです。
洗濯をしていても、「オギャー」と泣く赤ちゃんの声が聞こえてきました。
・佐藤郁子さん
「2人とも泣いているな」
洗濯を中断。双子を抱っこしたり、さすったりしてあやします。
・佐藤郁子さん
「2人いるから大変だと思う。双子だから」
■介護報酬の改定で自身の給料減らし対応
4軒を周り終えて帰宅したのは、午後4時ごろ。朝から働き続けた佐藤さんの楽しみは、晩酌です。
夫の佐藤光公さんは、一緒に晩酌をしながら妻・郁子さんについて語ります。
・夫 光公さん(70)
「同期の集まりがあったとき、なんて言ったと思う?84まで働くからねって」
・佐藤郁子さん
「介護をしていた人が、おばあちゃんだが84歳までラーメン店をやっていた。その人を目標にして働こうと思って」
そんな佐藤さんの思いをよそに「介護報酬の改定」がなされました。
介護サービスを提供する事業所に対しては自治体から報酬が支払われますが、2024年の改定で、訪問介護の報酬が引き下げられたのです。
・佐藤郁子さん
「(介護報酬を)減らされたからといって、勝手にヘルパーの給料を減らすことはしたくない。その分自分が何かをすればいい」
従業員の給料を維持するため、自分の給料を半分以上カットし、赤字にならないようにしています。
実は、介護報酬全体では、プラスの改定でした。
しかし訪問介護は、ほかのサービスよりも大きな黒字だったため、利益の差を埋めるためにマイナス改定となったのです。
■「地方のことを考えていない」
都市部では、ヘルパーが効率的に集合住宅を回れる一方、地方では、家を一軒ずつ訪問するため、移動時間やガソリン代の負担が大きくなります。
・佐藤郁子さん
「都会でこんなに、30分も1時間もかけて行くところなんてないから、すぐそこすぐそこって行っているわけでしょ」
「自分たちの都会のことしか考えていない。へき地は関係ない、考えていない」
それでも佐藤さんは、利用者のために、続けるつもりです。
・町の高齢者支援事業利用者(93)
「うれしい。いつも(料理や掃除を)やってくれるから。できれば自分の家で往生したい」
・佐藤郁子さん
「待っていてくれるのがうれしい。みんな待っているんじゃないだろうか。ヘルパーを。きっとそう思う」
いつまでも、自分らしく好きな場所で生活したい。
その願いに寄り添う訪問介護を守ろうと、今日も奔走する人がいます。