北海道の山で木材を引き、北の大地で畑を耕す“ばん馬” 人馬一体となって自然とともに生きる“馬搬”林業という仕事…森を維持して未来を考える日々
2025年02月14日(金) 21時45分 更新
馬が畑を耕し、木材を運ぶ、馬搬(ばはん)という仕事を皆さんは、ご存知でしょうか。
昭和の時代には、当たり前だった北海道の風景に魅せられた家族を、カメラが追いました。
林業を営む『西埜馬搬(にしのばはん)』の西埜将世(にしのまさとし)さん(45)。
馬搬とは、馬の力を利用して山林で伐採した木を運んだりすることです。
仕事の相棒は約900キロの“ばん馬”。そこには、森にやさしいエコな林業の現場がありました。
北海道恵庭市出身の西埜さん。仕事の相棒はおよそ900キロの“ばん馬”カップ9歳です。
野生動物の生態や自然体験施設のスタッフ、林業会社などで勤めていました。
そんな西埜さんが岩手で“馬搬”の存在を知り、“馬搬”の本場とされるヨーロッパを訪ねるなど、学びを重ねます。
そして2017年に、一家4人で北海道の厚真町に移住。馬搬林業家としての日々が始まりました。
西埜馬搬 西埜将世さん(45)
「林業や森づくりの現場でも、場所を選べば、今の時代でも馬のほうが活躍できるよさがあるなと思ったので、可能性を感じてやりたいと思ったんですよね」
映像は1964年の日高町です。雪の中、馬が林道で大きな丸太を運んでいます。時には山に登り、時には畑を耕したり、収穫した大量の大根を運んだり…。
かつて馬は人にとって家族であり、仕事仲間でもありました。その林業に馬を復活させる。利点はどこにあるのでしょう。
向かったのは、北海道栗山町のブドウ畑でした。
ワイナリー ロマン・ヴァインシュトックさん
「きょうは3か所あります。(ブドウの)列がせまい。1.8メートルにした」
繋げられたのは、ヨーロッパで伝統的に使われている農耕器具でした。
馬が通った後には、20センチほどの溝ができています。
ワイナリー ロマン・ヴァインシュトックさん
「ブドウの根は、深くいかせたい。浅い根がなくなる。ちゃんと(土が)かぶると外の寒さから守る。溝は水が抜きやすい。いろいろいいことがあります。馬がいるだけで、楽しい」
雑草の根を細かくして、土の養分にしながら溝を作る。馬の蹄も畑を耕す効果があるとされています。
機械では真似できない、土にやさしい作業です。
ばんばの“カップ”は元競走馬。レースは一つも勝てませんでしたが、西埜さんの目にとまりました。
力仕事だけではありません。時にはこんなイベントにも参加します。沢山の客の前で“カップ”に装飾品が次々とつけられていきます。
東北・岩手の伝統神事で行われている「チャグチャグ馬コ(うまっこ)」のモデル馬に抜擢されました。
西埜さんの次女みのりさんを乗せて行進です。
西埜馬搬 西埜将世さん(45)
「(長女で)中2の娘はふざけて“馬搬滅亡させたい”と、母の大変さを感じてか、そういうことを言う年ごろになりました」
イベントには家族一緒に参加して、馬の魅力を広く伝えていきたいと話しています。
この日の現場は、山に入り、木材運びなどする作業。馬が一番必要とされる大きな仕事です。
西埜馬搬 西埜将世さん(45)
「林業のシーズンはある程度忙しくなる。仕事を出すほうも難しいと思うんですよ」
傾斜のある山林。機械を入れると倒れる危険性がありますが、馬は、いとも簡単に木々をすり抜けながら、登っていきます。
この日、取材カメラの前で、倒した木が隣の木に引っかかるアクシデントが発生しました。
西埜馬搬 西埜将世さん(45)
「右にいけないかな。いいよ!」
“カップ”の力がピンチを救います。丸太は1本200キロから300キロ。馬の体重の半分くらいまでは、このような条件下でも運ぶことができるそうです。
依頼主・三菱マテリアル 川合英之さん
「機械だと森の中に入って、道をつくって木を取ってこないといけないが、(馬搬は、ほかの)木を切らなくても、森を傷めず木を出せるのが一番のメリットだと思っています」
樹木をすべて切ってしまう“皆伐”ではなく、森を維持しながら未来を考える…。馬が運搬するのでCO2も出さないエコな作業となります。
西埜馬搬 西埜将世さん(45)
「生き物で大変なところもあると思うけど、やっている人が少ないからこそ、いろいろな人と興味ある人と一緒に(技術を)高められたらと思う」
森田絹子キャスター)
西埜さん、最初は仕事はゼロだったそうですが、だんだんと仕事も仲間も増えていて馬搬(ばはん)の見学に来る方やトレーニングを担当しているスタッフもいて、関心もある人も少なくないそうです。
堀啓知キャスター)
実際こういった山での仕事と言うのは、年間90日ぐらいしかないということで、もっと需要が高まってくれればなと思います。
効率化を求めるなら機械化した方がいいのかもしれません。
しかし、馬と一緒に暮らし、その環境を維持していくという西埜さんの日々は、単に効率さを求める生活では得ることができない、とても豊かな時間なんだと、感じました。