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「頼ることを屈辱とする価値観の影響も無視できない」元エリート会社員の94歳被告の男に有罪判決“老々介護”89歳妻を殺害の罪 懲役3年執行猶予5年

2024年07月22日(月) 18時21分 更新

札幌地裁(22日)
札幌地裁(22日)

去年11月、札幌市豊平区の自宅で認知症の妻を殺害した罪に問われた94歳の男の裁判員裁判で、札幌地裁は執行猶予付きの有罪判決を言い渡しました。

札幌市豊平区の無職・上牧道雄被告94歳は去年11月、自宅で当時89歳の妻、英代さんの首をひもで締めて殺害した罪に問われています。

事件現場(去年11月 札幌市豊平区)
22日の判決で札幌地裁は「苦しんで抵抗する被害者の様子を目のあたりにしながら数分間にわたって頸部を絞め続け、犯行は強固な殺意に基づく悪質なもの」と指摘。

また、犯行時の被告の様子について、被告人の完璧主義的な性格傾向や周囲に頼ることを屈辱とするという価値観の影響も無視できないものの、介護疲れを一因とするうつ病の影響もあったとしました。

懲役3年、執行猶予5年の判決(22日 札幌地裁)
その上で「被告人は犯行翌日に自首し、反省と後悔の態度を示して、高齢であること、被害者遺族が処罰を望んでいないこと」として、懲役5年の求刑に対し懲役3年、執行猶予5年の判決を言い渡しました。

◆弁護側は「無理心中を試みたのは、介護疲れによるうつ病が原因」
65年間連れ添った妻を自らの手で殺害したとされる上牧被告。

裁判で検察が証拠として提出した遺書などから、認知症が進む妻の介護に疲れ、将来を悲観した被告の苦悩が明らかになっていました。

上牧被告は94歳は、妻英代さん当時89歳と自宅で2人暮らし
起訴状などによりますと、上牧被告94歳は、事件当時、上牧被告と英代さんは2人暮らしで、上牧被告は普段から、認知症を患い、要介護度2の認定を受ける英代さんの食事の世話などをしていました。

16日、札幌地裁で開かれた初公判にグレーのスーツ姿で出廷した上牧被告は、しっかりとした足どりで証言台の前に立ちました。

難聴を患う被告のために、証言台にはスピーカーが用意されました。

札幌地裁の吉戒純一裁判長に、起訴内容に間違いがないか問われた上牧被告は「ございません」と認めました。

冒頭陳述で検察側は「妻の介護を継続できず、施設に預ける金銭的余裕もないと将来を悲観し、心中を決意して犯行に及んだ」と指摘。

弁護側は「無理心中を試みたのは介護疲れによるうつ病が原因で、再犯の可能性は低く、犯行を深く反省している」などと情状酌量を求めました。

◆被告は大手製紙会社の支社長やホテル社長を歴任
北海道東部の弟子屈町で生まれた上牧被告は、北海道大学農学部を卒業後、大手製紙会社に入社し、60歳で定年退職するまで札幌支社長などを務めました。

妻の英代さんとは、1958年に結婚。

翌年には長男、結婚から4年後には長女が誕生しました。

64歳で製紙会社の系列ホテルの社長を退任してからは、年金生活に入り、2016年から自宅で英代さんと2人で暮していました。

英代さんが2019年に軽度の認知症と診断されてからは、平日は訪問介護やデイサービスなどを利用し、上牧被告も食事の世話などの介護を行っていました。

証言台に立った長男は、2人について「円満で仲の良い夫婦だったと思っている」と証言していました。

◆妻の介護をする一方、被告自身の体調も不安に「2人で冬を越すのは難しい」
検察によりますと、事件のきっかけになったのは去年10月26日。

上牧被告自身がめまいやふらつきなどの症状で病院を受診したことでした。

この時、英代さんの認知症は進行し、去年の夏ごろには要介護度2の認定を受け、上牧被告の介護の負担は増えていました。

上牧被告を乗せた車両(16日 札幌地裁)
上牧被告のめまいやふらつきは、介護疲れによって発症したうつ病の症状でしたが、受診した消化器内科では「異常なし」という診断でした。

症状は、老衰の表れだと考えた上牧被告。

「治る見込みはなく、どんどん悪くなる」と考え、英代さんを施設に入れることを考えました。

しかし、当時の収入は月27万円の年金のみ、預金も少なく、月14~15万円かかる施設への入所は諦めました。

自身の体調悪化から妻の介護を続けることができず、施設に預ける金銭的余裕もないと悲観した上牧被告は「2人で冬を越すのは難しい。

いっそ家内を私の道連れにして楽になろう」と心中を決意。

そして長男と長女に向けて遺書を書きました。

▽遺書の内容(検察の証拠調べより)
・11月7日、これからママを連れて死出の旅へ立ちます。父は老後の備えを甘く見ていたようです。ママは仏様のような状態で、かわいそうでたまりません。最後に子どもに迷惑をかけて本当にダメな父親です。
・11月11日、後のことを考えると夜も寝付けません。7日から5日間眠れておりません。今のママは、時間と空間のない世界で生きています。

初公判で上牧被告は「静かに老後を送らせてやるんだった」と述べる
◆「静かに老後を送らせてやるんだった」
弁護側の被告人質問で上牧被告は、英代さんの人柄を「本物の優しさを持って、家族に対する温かい気持ちを持つ人だった。
(認知症が進んで)自分の意思表示をできなくなってからも、その思いはにじみ出ていた」と語り、「かわいそうなことをしてしまった。
静かに老後を送らせてやるんだったと、反省をしてみても帰って来ませんので無念を噛みしめています」と話しました。