裁判員が会見「被告の若さは考えなかった」遺族もコメントを発表 犯行当時19歳だった女の被告(20)に懲役23年の判決「身勝手かつ理不尽で酌むべき点は全くない」弁護側は控訴せず
2025年03月07日(金) 19時00分 更新

■《犯行当時19歳だった被告(20)に懲役23年の判決》
北海道旭川市で女子高校生が橋から転落し、殺害された事件の裁判員裁判で、旭川地裁は、犯行当時19歳の女の被告(20)に懲役23年の実刑判決を言い渡しました。犯行当時19歳だった女の被告(20)に懲役23年の判決(7日・旭川地裁)
犯行当時19歳だった女の被告(20)は、2024年4月、内田梨瑚被告と共謀して女子高校生を車で連れ去り、旭川郊外の橋から転落させて殺害した罪などに問われています。
被告は2月27日の初公判で起訴内容を認め、裁判では、被告(20)が果たした役割の大きさや量刑が争点になっていました。
5日の論告で検察は、「犯行は極めて残虐かつ悪質で、責任は内田被告と大きく異なるものではない」として懲役25年を求刑。5日の論告で検察「極めて残虐かつ悪質」として懲役25年を求刑
一方の弁護側は、「立場は従属的で更生の可能性も高い」として懲役15年が妥当と求めていました。弁護側は「従属的で更生の可能性も…」懲役15年が妥当と求める
■《「犯行様態は極めて悪質…動機は身勝手かつ理不尽》
そして3月7日。グレーのシャツに黒のズボン姿で法廷に姿を見せた女の被告(20)。
旭川地裁の小笠原義泰裁判長から判決が言い渡されました。
小笠原裁判長:「被告人を懲役23年に処する」女の被告(20)に懲役23年の判決を言い渡す(7日・旭川地裁)
小笠原裁判長は「犯行態様は、残酷で極めて悪質であり、感情の赴くまま犯行に及んだ被告の動機は、身勝手かつ理不尽で酌むべき点は全くない」と厳しく指摘しました。
一方で「犯行に主体的に関与したことは明らかだが、被告の役割は内田被告と比較すればやや小さい」として、被告(20)に懲役23年の判決を言い渡しました。
■《裁判長の問いかけに涙をこらえながら答える》
裁判長から「判決内容は分かりましたか?」と聞かれると、被告は涙をこらえながら、こう一言、答えました。
女の被告(20):「はい」涙をこらえながら裁判長からの問いかけに答えた被告(20)
裁判長をまっすぐに見つめ、判決を聞いていた被告(20)。
裁判は15分ほどで閉廷し、最後は両手で涙をぬぐい、被告は法廷を後にしました。
■《遺族がコメント発表「17歳の娘が失った一生を考えると…」》
裁判後、遺族は次のコメントを発表しました。(全文)
・【判決について】
検察官の懲役25年という求刑も、裁判所の懲役23年という判決も、法律の範囲内で私たち被害者遺族の気持ちを汲んでくれたということは理解しているものの、17歳の娘が失った一生を考えると、23年でも軽いという思いです。
・【被告人について】
今でも被告人を許すことはできませんが、娘が川に落ちるまでの被告人の供述は、自らの保身だけでなく、本当のことを言っているように感じ、そのことによって、娘の最後を知ることができました。
被告人には、自ら行ったことに真摯に向き合い、反省してもらいたいです。
・【最後に…】
捜査に協力してくださった方々、神居古潭にお花、飲料、文具などをお供えしてくださった方々、これを管理してくださった方、そして娘のために手を合わせてくださった全ての皆様の優しい御心に、親族一同、厚く御礼を申し上げます。(以上)
■《裁判員が会見「若さは考えなかった」~『特定少年』への“判断”》
判決を終えた裁判員が記者会見し、『特定少年』裁判としての判断の難しさを振り返りました。
・裁判員を務めた男性
「今までに例のない事件だと感じた。元々インターネットなどで情報は持っていたが、法廷で証言などを聞いて、被害者が残酷な目にあって亡くなった、大変な事件だと感じた」
「裁判が終わって判決までいたが、今でも非常に心の中に重くのしかかっている」
「(被告の)年齢は若かったが、今回の犯罪の重大さに関して言えば、若さは考えなかった」
別の裁判員たちからは、裁判全体を通じて「辛かったことに尽きる。あまりにショッキングで現実社会で起きたものと思えない…辛かった」との声もあり、また『特定少年』への量刑を考えるうえで、葛藤があったと話しました。
「反省とか、どう思っているかはわからないが、公平・中立というのが難しかった」
「どういう気持ち、どういう心情か、表情や立ち姿から汲み取れるものは汲み取ろうと思った」
「19歳の犯行だが、犯した罪を考えると成人と同じ扱いで裁くというか、罪に対しての評価が大事。一方、自分が19歳だったころを考えると、大人としての未熟さはあった。最終的な判断は難しかった」
■《弁護人によると、被告側は控訴しない方針》
弁護人によりますと、被告本人の意思も確認し、また法廷で被告自身が「どんな刑でも受け入れます」と伝えていたように、控訴することは一切考えていないということです。
■《元裁判官は、この裁判をどう評価したのか》
今回の裁判員裁判について、福岡家庭裁判所小倉支部で少年審判の経験もある、札幌地裁の元裁判官、内田健太弁護士に解説してもらいます。札幌地裁元裁判官 内田健太弁護士
Q.裁判でも重要なポイントとなった、女子高生が橋から転落した場面など、防犯カメラの映像などの決定的な証拠がない中で、2人の被告の話は全く食い違っていました。裁判所はどう判断したと考えますか。
A.札幌地裁元裁判官 内田健太弁護士
「刑事裁判には、『疑わしきは被告人の利益に』という大原則がある中で、積極的に供述を信用したというよりも、信用性を否定するだけの事情がなかった。消極的な意味で、この裁判の中では、当時19歳の被告の供述を前提とするという判断だと思う」
Q.犯行の中での被告人の役割も論点となりました。
・弁護側の主張「犯行の大半は内田被告の指示。当時19歳の被告は従属的な立場だった」
・検察側の主張「内田被告に強制されたわけではなく、仲間意識でみずから参加した」内田梨瑚被告(22)
⇒旭川地裁の判決
「当時19歳の被告は一連の犯行に主体的に関与した」
「一部は内田被告の指示で、役割は内田被告に比べ、やや小さい」
この裁判所の判断を、内田弁護士はどうみますか。
A.札幌地裁元裁判官 内田健太弁護士
「供述自体は、当時19歳の被告のものを前提としているが、従属的か、主体的かという評価の問題です。裁判所は、被告の供述を前提としても十分主体的で、減刑するような事情ではないと評価しているのだと思う」
Q.19歳の特定少年だったことは、判決に影響を与えたのでしょうか。
A.札幌地裁元裁判官 内田健太弁護士
「一応、判決要旨を見ると、若年だったことは考慮要素にはあがっているんです。ただ、裁判員も述べていましたが、大きく評価したという形跡は見当たりません」
「犯行内容が少年の未熟さの延長と言える範囲をおよそ超えていて、若いからという理由で正当化できないという判断があったのだと考えています」
「また、23年という量刑について、『これで十分だ』という意見は少ないと思っています。しかし、先例から比べると、重い判決だと言えます。先例から大きく逸脱しすぎると、高等裁判所で裁判官から否定される現実もあり、みなさんの法感情と、制度の限界の間で悩まれた結果だと思われます」
Q.全国的にもまだ少ない『特定少年』の裁判の中で、今回の判例は今後、影響を及ぼすのでしょうか。
A.札幌地裁元裁判官 内田健太弁護士
「その通りです。この種の残虐かつ悪質な事件の場合には、特定少年であっても大人と同等の責任を取るという、一つの例になるかなと思っています」
Q.今後は内田梨瑚被告(22)の裁判が行われます。今回の裁判は、内田梨瑚被告の裁判にどう影響するのでしょうか?
A.札幌地裁元裁判官 内田健太弁護士
「2つ影響があると思っています。1つは、別裁判とはいえ、当時19歳の被告の供述が前提として判断され、2人で殺人を犯したと認定されているわけです。今回の裁判で内田被告は証言していませんが、無罪を争うようになったら、この点はハードルになるだろうと思っています」
「もう1つは『やや小さい』と裁判長が事件の役割を評価した懲役23年という量刑です。内田被告が有罪となった場合、基本的にこれを下回ることはあり得ない」内田梨瑚被告(22)
内田梨瑚被告(22)の裁判の日程はまだ決まっていません。