北海道のニュースNews

アイコン北海道のニュースHokkaido News

時速120キロの白バイ警官死亡、右折のトラック運転手に猶予付き有罪判決…札幌地裁「白バイの高速度が重大な結果に及んだことも否定できないが、職務に従事中で、さしたる過失はない。予見は可能だった」⇒無罪主張の運転手側は控訴する意向

2024年08月29日(木) 13時35分 更新

トラックと衝突、白バイの警官死亡の事故現場(2021年9月、苫小牧市)
トラックと衝突、白バイの警官死亡の事故現場(2021年9月、苫小牧市)

 2021年9月、北海道苫小牧市の交差点で、白バイと衝突し、警察官を死亡させた罪に問われている大型トラックの運転手の裁判…札幌地裁は29日午後、禁錮1年、執行猶予3年の有罪判決を言い渡しました。無罪を主張の運転手側は、控訴する意向です。

 起訴状などによりますと、砂川市の無職、谷口訓(さとし)被告56歳は、2021年9月13日、苫小牧市柏原の道道の信号機のない丁字路交差点で、運転していた大型トラックで右折しようとした際、反対車線を直進してきた白バイと衝突…白バイに乗っていた男性警察官(当時32歳)を死亡させた過失運転致死の罪に問われています。

現場は、苫小牧市柏原の道道の信号機のない丁字路交差点
 この事故をめぐり、検察は、おととし3月、谷口被告を不起訴処分としましたが、検察審査会への申し立てを受けて再捜査した結果、去年5月8日付けで在宅起訴していました。

右折したトラックの中央付近に衝突痕
 これまでの公判で、被告側は「結果は重大だが、時速120キロという高速バイクの接近を予見し、回避することは不可能。サイレンは鳴ってないし、赤色灯もドラレコでははっきりと確認できない。右折の仕方には問題あったが、交通法規違反にとどまり、道交法違反の刑事罰は無関係。被告に過失はない」として、無罪を主張。

トラックは、道道に合流待ちの乗用車の“内側”に入る不適切な右折
 これに対し検察は「当時、白バイは警ら中で、赤色灯を点灯させながら118キロで走行していたが、トラックを見つけて88キロまで減速した。サイレンを鳴らさず、118キロ出していたのは、違反車両に存在を察知させないためとも言えて、違法性はなく、責められることもない。被告の『見えた』という表現は信用できず、右折先の反対車線に停止していた車両の“内側”を進行しようとして安全確認を怠り、事故が起きた。刑事責任は重い」として、禁錮1年2か月を求刑。

北海道警察は、事故防止に向けて「最高速度100キロ」の通達…
 一方、公判では、北海道警察が事故防止に向けて、白バイに「最高速度を100キロ」とするよう通達していたことも判明しましたが、検察は、通達を18キロも超える速度で走行するほどの緊急性が白バイにあったのかなどは、説明していませんでした。

判決公判の廷内(8月29日午後、札幌地裁)
 こうして迎えた29日午後の判決公判で、札幌地裁の吉戒純一裁判長は、下記のように指摘した上で「白バイが高速度だったことが重大な結果に及んだことも否定できないが、被告の刑事責任は軽くない」などとして、禁錮1年、執行猶予3年の有罪判決を言い渡しました。

■判決理由

・右折の開始時、車両の有無と車両間の距離を確認すべきで、予見は可能だったし、予見義務もあり
・白バイが高速度で来ていたとしても、直ちに予見可能性から否定されるまでもない
・事故後と公判供述の変遷などから「跨線橋のところに“影”が見えた」は信憑性が高くない
・右折の確認は6秒も前で、意識的に確認していたとは言い難く、注意義務を果たしたとは言い難い

禁錮1年、執行猶予3年の有罪判決を言い渡した吉戒純一裁判長
・白バイは高速度で走行していたが、警官の職務に従事中で、さしたる過失はない
・被害結果は重大で、家族の喪失感も深く、処罰感情が重いのも理解できる
・白バイが高速度だったことが重大な結果に及んだことも否定できないが、被告の刑事責任は軽くない

 なお、これまでの公判で、事故現場に唯一、居合わせた乗用車の男性の証言、被告人質問などは、下記のようになっています。

■事故現場に乗用車で居合わせた男性の証言

・白バイの赤色灯は点いていたが、サイレンの音は聞いていない
・ドライブレコーダーでは、トラックがウィンカーを点けてたようだが(自分は)見えなかった
・トラックは、真っ直ぐ行くだろうと思った
・太陽がトラックの背にあり、白バイを照らしていた
・衝突の瞬間は見ておらず「バチャーン」という音で気づいた
・トラック運転手は事故直後「白バイを全く確認できていなかった」と自分に話した

亡くなった警官の警察葬(2021年10月、札幌市南区の北海道警察学校)
■谷口被告への被告人質問

<弁護人とのやりとり>

・直進の車両を2~3回、確認する中で、遠くに自転車やバイクのような“影”が見えただけ
・あの距離なら曲がれると思って、右折した
・(白バイと認識は?)ありません
・(赤色灯は?)見えません
・(サイレンは?)聞こえません

亡くなった警官の警察葬(2021年10月、札幌市南区の北海道警察学校)
・事故直後、気が動転していて、警察に「白バイに気づいてなかった」と話した
・帰宅して落ち着いたら、遠くに見えていたことを思い出したので、証言を変えた
・検察からは「見えなかったんだろ?見えた、見えないは、どうでもいい」などとまくし立てられたが「最初は見えた」と話した
・事故直後の状況は、はっきりとは覚えていない

・あの日は仕事で、苫小牧市から雨竜町に向かっていた
・週に1回ほど通る道、時速60キロほどで走行し、右折時は40キロほど
・右折先の乗用車が停止線から出ていて、曲がり切れなさそうだと思い、やむなく内回りしたが、不適切だった

<検察とのやりとり>

・(影を確認してから、どれくらい?)4~5秒あった
・(影を見てから、ずっと影を見続けた?)ずっと見ていたわけではない
・(影が見えた場所は?)橋があって、カーブがあったところの先
・(対向車の速度は?)わからない
・(対向車との距離は?)わからない
・(実況見分で、白バイが2回見えた旨の説明した?)覚えていない
・(先に曲がろうとしたのは、なぜ?)影が見えて、あの距離なら曲がれるだろうと思った

<裁判長とのやりとり>

・(影のようなものは、どのように確認?)パッと見ではなく、正面を見て
・(ハンドル切る直前の確認は?)記憶がないです…

 判決後、弁護人は取材に対し「被告は、事故を起こしたことを反省しているし、被害者にはあらためて謝罪するが、刑事罰が相当なのかどうかは、高裁の判断を仰ぎたい」として、控訴する意向であることを明らかにしました。