“前触れ地震”から巨大地震の可能性を知る『北海道・三陸沖後発地震注意情報』 太平洋沿岸に甚大な被害をもたらす災害に自治体の備えはどこまで?
2025年03月12日(水) 18時00分 更新
東日本大震災から14年。
巨大地震の可能性が高まっていることを知らせるのが『北海道・三陸沖後発地震注意情報』です。
甚大な被害をもらす巨大地震に対して、どこまで備えは進んでいるのか?
HBCによる独自の自治体アンケートで、いくつもの課題が浮き彫りになりました。
太平洋に面する北海道新冠町(にいかっぷちょう)です。14年前の東日本大震災で、2メートルの津波に見舞われました。
新冠町節婦自治会 荒木正弘会長(70)
「3.11のときは学校に避難した。津波も…、あの漁業組合の建物が浸水したと言っていた」
東日本大震災が発生した、14年前の2011年3月11日。その2日前に“異変”は起きていました。
2011年3月9日。東北の三陸沖で起きたマグニチュード7.3の地震。のちに、この地震が東日本大震災の“前触れ”であったことが、わかっています。
こうした“前触れの地震”を防災に活かそうと、2022年に国が運用を始めたのが『北海道・三陸沖後発地震注意情報』です。
北海道の根室沖から東北の三陸沖にかけての“想定震源域”やその周辺で、マグニチュード7以上の地震が起きた場合、それを上回る巨大地震が発生する可能性が、普段よりも高くなっている――。
それを知らせるのが『北海道・三陸沖後発地震注意情報』です。
対象となる市町村では、発表から1週間程度は、すぐに避難できるよう、対応を取ることなどを呼びかけます。
新冠町は、この情報が発表されたとき、防災メールで町民に周知することなどを『地域防災計画』で定めています。
また、防災計画には定めていませんが、新冠町は『自主避難所』も開設することにしています。
新冠町総務課防災担当 矢野景士 主査
「南海トラフ(地震臨時情報)の際には、かなり混乱したと聞いている。(対応を)事前に検討しておく必要があると考えている」
国のガイドラインは『北海道・三陸沖後発地震注意情報』が発表された場合の対応について、地域防災計画に反映するよう定めています。
HBC北海道放送は『後発地震注意情報』の対象エリアである、北海道内の63市町村に対し「情報が発表された際の対応について事前に決めているか?」など、アンケート調査を実施しました。
その結果、対応を「地域防災計画で定めている」と回答したのは、63市町村のうち、31市町村。半数に届きませんでした。
一方、約2割、14の市と町は「状況などを踏まえて判断」するなどとして、対応を「決めていない」と回答。
自治体の対策に遅れが浮き彫りになりました。さらに、課題も見えてきました。
新冠町節婦自治会 荒木正弘会長(70)
「いつ地震が来るかわからないから…」
新冠町の自治会長、荒木さん。災害への備えは欠かしません。ところが、意外にも思える言葉が返ってきました。
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(Q.『北海道・三陸沖後発地震注意情報』について知っているか?)
新冠町節婦自治会 荒木正弘会長(70)
「後発…?それは初めて聞きましたけれども…」
今回のアンケート調査では、対象の市町村から見た“住民への周知度合い”についても尋ねてみました。
すると「あまり周知できていない」「全くできていない」との回答は19市町村、約3割を占めます。
また「どちらとも言えない」との回答も31市町村と、約半数に上り、8割近い市町村が“住民周知に課題がある”と捉えていることが明らかになりました。
あまり周知できていないと回答した自治体は、取材にこう答えています。
鹿追町
「定期的な情報提供などは実施しているが、災害に比較的強い内陸地であり、意識は低調」
豊浦町
「制度の説明やチラシ、パンフレットの配布などの啓発では、なかなか住民の印象に残すことの難しさを感じています」
この『北海道・三陸沖後発地震注意情報』が発表されたことは、まだありません。
しかし、過去の地震の発生状況から、発表の頻度は“おおむね2年に1回程度”とされています。
まさに「待ったなし」の状態ですが、今回のアンケート調査からは、この取り組みそのものが形骸化している状況が伺えます。
新冠町総務課防災担当 矢野景二主査
「余震、もっと大きな地震が来るかもしれない…ということは、経験上、みなさん知っていらっしゃると思うので、その当たり前のことをやっていただく、そういうものかと思んですが、こういう文言(後発地震注意情報)で出されたときには身構えてしまうのは仕方ないと思います」
さらに、自治体から「どこまで対応すればいいのか」単独で判断する難しさが聞こえてきます。
新冠町総務課防災担当 矢野景二主査
「南海トラフ(地震臨時情報)のときもそうだったが、自治体ごとに対応が違うので、住民も戸惑うと思います」
「『自主避難所を設置してください』とか『イベントの中止までやらなくていい』とか…、そういったことを国から発信していただけると、ほかの自治体と共通の取り組みができる」
役場から漏れる戸惑いの声。北海道の防災担当者も「わかりにくい状況」とこぼします。
北海道危機対策課 海溝型地震対策室 太田逸平主幹
「日頃からの備えが重要であって、それを確認した上で“普通の社会経済活動をしてください”というのが、今のスキーム(枠組み)になっています。それがわかりづらいのかとは思うが、現状としては、道の立場ではそういった話しかできない」
『北海道・三陸沖後発地震注意情報』が発表されたらどうするか。自分たちで考えようとする取り組みも行われています。
北斗市の職員や消防隊員が参加したワークショップです。
『北海道・三陸沖後発地震注意情報』の発表中に、“海沿いのホテルで親戚の結婚式が行われる”という設定で参列するかどうか?一市民の立場で考え、話し合います。
参加者
・「出席をベースで考えて立地やどういう建物かを考慮」
・「(会場の)ホテルが津波避難ビルに指定されていたら大丈夫だよねとか、その代わり、家族の連絡手段を考えておくとか」
・「結局、何も起こらなかったときに、あいつだけ来なかったって言われるリスクも…」
函館地方気象台 山本輝明 地震津波防災官
「住民から問い合わせがあることが多いと思うが、適切に(自治体の)皆さんが対応できるようになることも一つ、今回の目的」
“2年に1回”と言われる「後発地震注意情報」の発表。自治体として、いま何ができるのでしょうか。
関西大学社会安全学部 林能成教授(地震防災・地震学)
「(北海道内では)特に釧路地方で、熱心に地震対策を進めている自治体があるので、地震防災意識の高いところが、まずはマニュアルを作って、それが広まっていくということができるといい」
「自分のマチは“自分で守る”という心意気を持ってやっていくのが大事」
堀啓知キャスター)
『北海道・三陸沖後発地震注意情報』の認知度アップに向け、坂井学防災担当大臣は7日、会見で次のように発言しました。
坂井学防災担当大臣:
・「認知度向上の一つには、国民にとって分かりやすい名称であることも重要」
・「名称の変更なども気象庁と相談してもらえないかと検討するよう指示をしたところ」
わかりづらさ解消のため、情報の名称の変更も視野に、取り組むよう関係部局に指示したということです。