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「虫の心配がない土」に中東財閥も注目“食料自給率アップ”につながる期待…父子で挑むスタートアップ、開発のきっかけは大叔母の土いじり

2025年02月25日(火) 16時29分 更新

「土」の常識を覆す特許技術で世界へ挑戦する北海道大学発のスタートアップ企業があります。父と息子の二人三脚で育む夢を取材しました。

春が待ち遠しい、1月の札幌市。

・ラテラ 荒磯恒久会長
「もう少し(土を)取りたいな…コバエの卵などがいたりするから…」

園芸教室の準備で、観葉植物を鉢に植え替えます。使われていたのは、北海道生まれの「特殊な土」です。

・ラテラ 荒磯恒久会長
「200ミリリットルくらいまで、入れてみてください」



土の名前は「クリスタルグレイン」。

虫の食べ物である有機物を含んでおらず、「虫の心配がない土」として注目を集めています。

・ラテラ 荒磯恒久会長
「無機物と太陽エネルギーから有機物を作るというのが、植物のそもそもの基本的な仕事(光合成)です。有機物がなければ、植物ができないなんて、本末転倒なんです。ちょっと過激でしたかな」

土には、どんな秘密が隠されているのか。私たちはまず、製造現場へ向かいました。

「こんにちはー!」

車庫から現れたのは、荒磯慎也さん、あの土の開発者です。

・ラテラ 荒磯慎也社長
「ベンチャーというのは、みんなガレージから始まっている」

確かに、グーグルやアップルのような巨大企業も、始まりはガレージ。

スタートアップ企業「ラテラ」は、ここで誕生しました。

荒磯さんは、製造、受注、発送などの作業を1人でこなしています。

・ラテラ 荒磯慎也社長
「液体化した肥料を混ぜ込んでいく、という感じ」



人工の土=「クリスタルグレイン」の原料は、北海道でも採れる天然鉱物です。

拡大してみると、まるでスポンジのような細かい穴が。

その穴に独自の技術で無機肥料やミネラルなどを浸透させているのです。

水を注ぐと養分が溶け出し、植物が根から吸収する仕組みです。

虫が好む有機物を含まないため、小バエなど虫の心配がなく、屋内での栽培も楽しむことができます。

・ラテラ 荒磯慎也社長
「有機物だったり、微生物を使わない商品(土)は弊社だけ」

市販の土と人工の土を使って、記者もミニ大根を育ててみることに。すると、意外な結果が。



荒磯さんは大学卒業後、自動車会社を経て、三笠市役所に勤務。

当時の荒磯さんです。

~ほおを突かれる社長~三笠鉄道村のCM

そして、2015年、北海道大学発のスタートアップ「ラテラ」を立ち上げました。

もう1人の社員は化学が専門の北大名誉教授=父・恒久さんです。



開発のきっかけは、施設に入所した大叔母さんへの想いです。

・ラテラ 荒磯慎也社長
「畑仕事が好きな大叔母さんだったのを知っていた。(園芸ができなくなり)何か寂しそうな顔をしていた。そこから、虫のわかない土ができないかな、と」

「虫の心配がない土」づくりを決意しました。



2024年の秋、砂漠の国のビジネスマンが北海道にやってきました。

「アラジンの魔法」のような土に注目したのは、中東の大手財閥企業です。

・UAEの財閥企業 新規ビジネスの担当者
「食の安全保障に悩むUAEの問題を解決できないか、答えを探しにきました」

UAEは、食料自給率が20%と低く今、海外への食糧の依存度を下げる国づくりを進めています。

そんな中、荒磯さんの土は、農業の新たなビジネスを探していた担当者の目にとまったのです。

・UAE財閥企業 新規ビジネスの担当者
「殺虫剤も必要ないなら、湾岸諸国でも屋内栽培の糸口が見つかるかもしれない。もっと早く来るべきでした」



記者が育てているミニダイコンは、育てて2週間。

市販の土で、”生育にばらつき”が起きているのは、土が原因でした。

・ラテラ 荒磯恒久会長
「(市販の土は)根張りよくないね。この下が根」

市販の土では、根が真下に伸びていません。こうなると、大根などは、形が揃わずに規格外となり、フードロスの原因にもなりかねないのです。一方、「クリスタルグレイン」では…。

ラテラ 荒磯恒久会長
「こんな下まで(根が)来ている。カップの壁側に白いのが見える」



中東ビジネスを仲介する 日本企業の担当者
「日系企業さんにすごく来てほしいという要望があります」

この日、中東でのビジネスを仲介する日本企業から、農業技術の展示会で、出展の打診がもたらされました。

ラテラ 荒磯恒久会長
「来年度中には行ってみたい」



記者
「2人言い合ったことは?」

ラテラ 荒磯慎也社長
「何百回って…」

ラテラ 荒磯恒久会長
「何百回も」
「試薬を入れて溶かすんですけど、順番を間違えるとダメになったりする」

ラテラ 荒磯慎也社長
「ある日、突然きれいに溶けてて…(父親が)『キレイに溶けた!』と…あれはおもしろかったよね」

独自のアイデアとスピードが勝負のスタートアップ。

父と子の夢は、開発した土で育つ野菜のように、大きく膨らんでいます。

北海道ニュース24