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父親が分からない子を妊娠・出産した「孤立妊婦」2年間を追う…“孤立”と“喜び”のはざまで子育てと向き合う女性に必要な支援とは

2025年03月15日(土) 09時00分 更新

 夫や親族がいないなど、支援が必要な妊婦が増えています。しかし、支援の網からこぼれ落ちる人がいます。背景にある見えない生きづらさを考えます。

札幌市内の病院に響く泣き声。元気な女の子の赤ちゃんです。

・助産師
「はい、おめでとう」

母親のゆきさん(仮名 当時22)。

思いがけない妊娠でした。赤ちゃんの父親が誰なのかは、わかっていません。



頼れる家族もおらず、たったひとりでママに。

ただ、ゆきさんの出産を心待ちにしてくれた人たちはいました。

少しだけ時間をさかのぼります。

2023年2月、妊娠8か月のゆきさんです。



・ゆきさん(仮名 当時22)
「両端らへん?横にいるんですよ、私の赤ちゃん」

札幌市にある「リリア」という施設。



ゆきさんはここで、出産の前後約7か月間を過ごしました。

「リリア」は、思いがけない妊娠に悩む女性たちが、一時的に無償で住むことができる居住スペース。

すすきののガールズバーで働いていたゆきさん。

妊娠を機に辞めたため、収入が途絶え、生活は困窮。

児童養護施設育ちで頼れる人もおらず、ここにたどり着きました。

「出産」「養子」「中絶」…さまざまな選択肢のなかで自ら育てることを選んだのです。


相談員 佐々木友美さん 「ごはんあるの?」

ゆきさん 「いらないです」

相談員 佐々木さん 「ダメだよ…ごはんないの?」


時におせっかいに、親子のような会話をみせるふたり。

「リリア」の支援は、“居場所”の提供だけではありません。

・相談員 佐々木友美さん
「自分で育てたいという彼女の希望があるので、一緒に買い物をして、予算を決めて『きょうのミッションは3000円』と言いながら」

ホストクラブに通い、1日で数十万円を使い込むこともあったゆきさん。

金銭感覚を身に着ける必要がありました。

赤ちゃんだけでなく、「母」となる女性のための支援。

ただ、産んで終わりではないのが子育てです。


2024年の春。ゆきさんの姿は母子生活支援施設にありました。

夫がいないなど、事情のある親子が暮らす施設です。

毎日、ミルクの量や回数など書きためた日記はこの日が最後。

赤ちゃんは、1歳の誕生日を迎えました。


写真館でのようす
「ママにのぼろうとしているの、かわいい…」

ハイハイして、笑って、立って…我が子の成長を喜ぶ、ゆきさん。



その一方で…。

ゆきさんは、子育ての一番の手本となる「母親」に頼れません。

泣いているときも、風邪をひいたときも、すべて手探りです。

・ゆきさん(仮名 24)
「子どもが好きだからとか思ってたし、赤ちゃんがかわいいからと思っていたけど、それだけじゃやっていけないって身に染みて感じたかな」

見えにくい困難とも、ずっと闘っていました。


妊婦が孤立した末に、赤ちゃんを遺棄する事件が全国で後を絶ちません。

孤立妊婦の支援活動を行う、熊本県の精神科医・興野康也(おきの・やすなり)氏です。

この日は、香川県で乳児3人の遺体が見つかり、殺人・死体遺棄に問われた母親の裁判で、弁護側の証人として法廷に立ちました。

どうして彼女たちが事件を起こしたのか。犯行の背景にある「生きづらさ」を見つめるためです。



・精神科医 興野康也氏
「精神科的にみると、孤立出産の問題というのは小さいころまでさかのぼるような問題。大人になって単にSOS出さずに出産したのではなくて、もっと根の深い問題になる」

軽度な発達障害や精神疾患を抱え、「困り感」はあったものの、医療や支援に繋がっていないケースがほとんど。

・精神科医 興野康也氏
「医療・福祉・行政がSOSを出せない人を早く発見して、そういう人の場合踏み込んだ支援をするような体制を作らないといけない」

・ゆきさん(24)
「きょうも頑張ろう…」



ゆきさんも、“生きづらさ”を抱えています。

子どものころからの自傷行為…継続的に医療につながっておらず、出産後に精神科に再び通い始めました。

・ゆきさん(24)
「もちろん産んでよかったし、こうやっていま一緒に生活できてるのはうれしいけど、たまに私がなんていうんだろう…私がママじゃないほうがいいんじゃないかと思うときがある」



見えにくいハンディキャップは甘えていると言われることも多く、社会の理解は進んでいません。

ゆきさんは、薬による治療も受けていますが、病状が悪化したときに、頼れる人がいないことが心配です。



国は、支援が必要な妊婦に対する支援策を進めていますが、自治体によってばらつきがあるのが現状。

見えにくい“生きづらさ”を抱える人がこぼれ落ちてしまっています。


森田絹子キャスター:
人吉こころのホスピタル 精神科医の興野康也氏は
▼障害があるからといって、罪を犯していい理由にはならない
▼特性を理解せずに責めるだけでは「相談すると怒られる」「自分のせい」と思い込み、SOSを出しにくくなる と指摘しています。

コメンテーター 鈴井貴之さん:
「孤立妊婦」という言葉のとおりで、「社会において人々を孤立させてはいけない」というのが大前提で、救いの手を差しのべる組織などがもっと多く存在するようになればいいと考えています。
欧米に比べて、日本は、カウンセリングが弱い印象。何かあったときに、気軽に相談できる社会になってほしいと思います。また、道徳観だけでなく、違うこと、違うものに対しても、寛容に受け止める姿勢も大切だと思います。

堀啓知キャスター:
妊娠は女性の身体的、精神的負担が大きいわけですが、これは女性だけの問題ではありません。

コメンテーター 鶴岡慎也さん:
事情のある女性がいるということも、男性側も理解する必要があるし、男性側の責任も考える必要があると思います。

堀啓知キャスター:
「孤立妊婦」について、「だらしない」という言葉でくくらないこと、支援の第一歩は社会全体の理解を進めていくことかと思います。

北海道ニュース24