増える外国籍市民に教育現場は…札幌市の「まちづくり条例案」から考える共生の在り方「対話で妥協点を折り合わせていくプロセス必要」と専門家
2025年02月27日(木) 16時45分 更新
札幌市は、持続可能なまちづくりをするため、「共生のまちづくり条例案」を3月の議会で制定を目指しています。
あらゆる違い、多様性を認め合うというのが内容ですが、一部の市民から反対の声が出ています。いったい、なぜなのでしょう。(HBC報道部:泉優紀子)
◆イスラム教徒たちが通う“スクール”の日常
イスラム教の礼拝は1日5回、学校であっても欠かせません。
ここは札幌市東区にある、「札幌インターナショナルスクール」。
4年前、道内で暮らすイスラム教徒たちによる宗教法人、「北海道イスラミックソサエティ」によって建てられました。
英語、日本語、アラビア語の3つを学び、将来は世界中の大学から進路を選ぶことができます。
いまいる生徒は皆イスラム教徒ですが、バングラデシュ、インドネシア、エジプト、ナイジェリアなど、国や文化は様々です。
・生徒
「私の国ではやらないこと(文化)を知って、『へーそうなんだ』って興奮する。日本の大学で医者になりたい。日本語を頑張らないとと思う」
・生徒
「将来はアフリカに住む人たちが互いに発展できるよう助け合いたい」
・札幌インターナショナルスクール モハメド・シェハタ校長
「私たちの学校にはいろんな文化があり、子どもたちにとって異国から来たことを誇りに思えるようになりました。自分のアイデンティティに誇りを持ち、自信に満ちた形で示せるようになるでしょう)」
校舎の中には、パレスチナ自治区・ガザの平和を願う作品があちこちに飾られています。
・生徒
「僕の家族だと思って助けたい気持ち」
◆外国人材がまちづくりの大切な存在に
札幌市における、過去10年の外国籍の市民の数です。10年間で約2倍。
少子高齢化により、さらに外国人材がまちづくりの大切な存在になると予測されます。
そこで札幌市が制定をめざしているのが、「札幌市誰もがつながり合う 共生のまちづくり条例」。
年齢や障害、性的指向、国籍、あらゆる違いを尊重したまちづくりを目指す「多様性」に言及した初めての条例です。
・札幌市ユニバーサル推進室 松原卓也 推進担当課長
「この理念を共有するところからスタート。例えば障害がある高齢者もいて、いろんな課題立場が複合化している。分野間連携や組織間連携を進めるきっかけに」
◆「共生まちづくり条例」に異論も
この条例案に「待った」を呼びかける集会が開かれました。
いったい何が問題なのか。集会を主催した団体の代表が取材に応えました。
・日本らしい多様性を考える会 道あさひ 代表
「議論が進んでいない問題性をはらんでいることもあるかもしれない」
主催した団体の代表で、自身をバイセクシャルであると公表する道さん。
・日本らしい多様性を考える会 道あさひ 代表
「障害者や年齢、LGBTもそうカテゴリー内での困りごとや価値観はさまざま。専門家が考える価値観が共通理解の普及とされてしまう可能性がある」
さまざまな違いを一括りにし、それぞれの分野から選ばれた委員だけでつくる条例は、一面的で一方的なものにすぎないと指摘します。
・日本らしい多様性を考える会 道あさひ 代表
「札幌市がこういうやり方ですよ、こうなんですというのをある種介入してはいけないと」
◆「対話的に進めるのが共生」
札幌市北区にあるイスラム教の礼拝所「モスク」。宗教法人が運営し、国内外からの寄付金で2023年に完成しました。
イスラム教徒=ムスリムの数は、道内で1万人を超えると言われています。
札幌市に住む多くは、北海道大学の学生や研究者たちです。
・北海道イスラミックソサエティ モハッマド・トゥフィック会長
「イスラム教のイメージは世界的に見たらそんなに良くないと思っている。本当はイスラム教は戦争大嫌いです」
宗教法人の会長で、北海道大学で歯学を研究するモハッマド・トウフィックさん。
妻のラビバさんお手製のバングラデシュ料理を用意し、歓迎してくれました。
2007年に国費留学生として札幌市に来たときは、赤ん坊を抱えての来日だったといいます。
・妻のラビバさん(43)
「子どもたちの面倒をみるのにそれほど苦労しませんでした。日本の環境は子育てをするのにとてもよかったです」
子どもたちは2人とも、日本の高校に通っています。
イスラム教の文化に興味を示す友人も多く、尊重されていると感じています。
・長男のユーフスさん(16)
「僕らのクラスだけはクリスマス会じゃなくて、普通の学級(お楽しみ)会をしてくれて、たった1人のためにも配慮してくれてとても優しいなと思った」
・長女のタスィンさん(17)
「私が食べられないもののリストを送ってと言われて、送ったらそれが入っていないものをお土産に買って特別なものを持ってきてくれた」
一方で、札幌市が検討を進める、多様性を認め合う社会を目指す条例案に対し、市民の一部からは、「価値観の押し付け」、「外国人の受け入れによる治安の悪化」などを懸念する声が寄せられています。
専門家は、「周りと同じ」をよしとする環境の中で育つ日本人は、多様性を受け入れる耐性が比較的弱いと指摘します。
・武蔵野大学 グローバル学部 神吉宇一 教授
「同じように考えて話ができる人たちなんだという接点を持っていくことが極めて大事。ちゃんと対話的にやっていく。どこまで認め、どこまでなら妥協できるということを折り合わせていくプロセスが『共生』だと思う」
トウフィックさんも、お互いの文化を消し合うのではなく、まずはお互いに知り話し合ってくことが、ともに暮らす社会に必要だと考えます。
・北海道イスラミックソサエティ モハッマド・トゥフィック会長
「海外の人が来たらわからないこといっぱいある。日本の文化はすごく良い文化だから私たちも習いたい。それを習う方法が欲しい。人間として一番大事なのは、(相手の)いいものは受け取って、自分を変える。本当は話さないと、友達にならないとわからない。いろんなダイバーシティ(多様性)があればいいと思う」