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「死ぬったってさ…どうここに存在したかってことでしょ」末期がんと歩みながら舞台に立つ俳優・斎藤歩60歳 北海道の演劇界で第一線を走り続ける男の生き方

2025年03月20日(木) 12時00分 更新

末期がんを患いながらも、舞台に立つ俳優が札幌にいます。

『がん』とともに、自分らしく生きる―。その姿を、カメラが追いました。

◇《病魔に侵されながら舞台に立ち続ける演劇人の生き方》

斎藤歩さん(60)
「死ぬったってさ、消えてなくなるだけのことだから、どう消えてなくなるかっていうより、消えてなくなるかまで、どう…ここに存在したかってことでしょ」



斎藤歩(さいとう・あゆむ)さん、60歳。札幌を拠点に全国で活動する、舞台俳優です。

ほぼ40年にわたって、北海道の演劇界の第一線を走り続けてきました。



そして斎藤歩さんは今、『尿路上皮がん』のステージ4、末期がんとともに生きています。

去年12月、北海道十勝地方の幕別町―。

舞台スタッフ「リハーサルを始めます、皆さまよろしくお願いいたします」

この日、斎藤さんが演出と出演を務める舞台『カフカ経由 シスカ行き』の1日限定の公演が行われました。

2年前、札幌で上演した舞台の再演で、人形劇師の沢則行さんとも、1年ぶりの共演です。



沢則行さん「あぁ、木でできているんだ。木遇だ」
斎藤歩さん「セワポロロ~!」
沢則行さん「セワポロロ?」
斎藤歩さん「うん、あの…」

上演に向けて、リハーサルが進む舞台上では、楽しげな2人の掛け合いが続きます。



ただ、この時、すでに飲んでいた薬に加え、彼は痛みを抑える頓服薬を飲み、何とか舞台に立っていました。

病はゆっくりと、確実に、彼の身体を蝕んでいました。

◇《ステージ4の厳しい病状の中「僕の中では実は半信半疑で…」》

斎藤歩さん(60)
「何とか、いま立ってられたんだけれど、ちょっとキツイね」

開演時間が近づき、客入りが始まりました。

斎藤歩さん「世界は今、右へ右へ傾きつつある」
沢則行さん「何言ってんだ」
斎藤歩さん「俺たちオヤジは左へステップを踏もうよ」

本番の幕が上がると、そこには“俳優・斎藤歩”の姿がありました。痛みを感じている素振りは、一切見せません。



斎藤さん自身が演出し、出演した舞台『カフカ経由 シスカ行き』。1時間と少しの公演が、終わりました。

斎藤歩さん「本当にありがとうございました、またお会いするときまで元気で、さようなら!」

楽屋へ戻った彼が、こんな言葉を口にしました。

斎藤歩さん
「ここまで公演ができるかどうかってのが、僕の中では実は半信半疑で…まあ、何とかできました」



舞台から1か月後、今年1月、記者が自宅を訪ねると…。

斎藤歩さん
「あー、ちゃんと歩いている。でも座るところ、きつそうだね…覚えてない」

舞台を収録した映像を見返しながら“舞台中の記憶がない”と言うのです。

命を賭けて舞台に立つ―。“演劇人”としての信念が、垣間見えました。

◇《演劇人として…夫として、心待ちにしていたいた妻の舞台へ》

去年12月の舞台を最後に、仕事をセーブしていた斎藤歩さん。次が長く決まっていないのは、俳優人生の中で初めてです。

斎藤歩さん
「うちの奥さんが『歩、前からね、時間があったら観たいDVD、映画、読みたい本を読んで“ボーっとしていたい”って言ってたしょや』って」

取材で自宅を訪ねた時、妻の薫さんは、札幌を離れていました。

不在の理由は、かつて参加していた劇団の舞台に出るためでした。今年2月の東京公演を皮切りに、5月まで全国各地を回ります。



斎藤歩さん
「札幌公演まで生きてるかな…札幌公演が4月だからね」

「そこまで生きてないんじゃないかって思ってたんだけれど、調子がいいからさ今、だったら東京に観に行こうかなって…」

今年2月、妻の薫さんが出演する舞台を観るため、東京へ向かうことを決めました。

斎藤歩さん
「公演中に入院ならまだいいんだけど、死んじゃったとなると、ちょっと大変だと思うんだよ、(妻の)西田も…」

「だから何とか、5月まで長持ちできるといいかな…」

東京・渋谷の劇場で上演される、妻で俳優の西田薫さんが出演する舞台。三谷幸喜さんが作と演出を手がける東京サンシャインボーイズ 復活公演『蒙古が襲来』です。

斎藤歩さん
「本当に嫌だ、東京。よくもまあ、こうやって、人が集まってくるもんだね」

そういいながら、表情は何だか楽しそうです。

上演は約2時間―。客席には古くからの知り合いの姿も多かったようです。

斎藤歩さん
「彼女(薫さん)の演技は楽しいね」

「“西田薫”っていう女優が、札幌で僕の演出とかやってる姿と違う、やっぱり、東京でまったく別のジャンルのエンターテインメントをやっている姿を観ることができたのは、すごくよかった」

(Q.次は4月の札幌公演ですね…)

斎藤歩さん
「まあ、そこまで生きてるかわかんないけどね」



北海道の演劇界の“レジェンド”、斎藤歩さん。がんと共に歩みながら演劇に生きる―。

それが自分の“生き方”だと語ります。

森田絹子キャスター)
斎藤歩さんは今年2月、札幌で行われた短編映画の撮影に参加したとのことですが、基本、いつ自分がいなくなってもいいように、と、仕事を調整しているということです
  
堀啓知キャスター)
妻の西田薫さんが出演する舞台が、4月3日から札幌で上演されるとのことです。

斎藤歩さんには、もう一度、その舞台をぜひ観てもらいたいと思います。


【『今日ドキッ!』2025年3月17日(月)放送】

北海道ニュース24