乗客家族側「社長個人にも重大な過失」桂田社長側「責任はない」【争点解説】弁護士の内田健太氏「判断の不合理をどれだけ立証できるか」《知床観光船事故》
2025年03月13日(木) 21時19分 更新
2022年に北海道知床半島沖で観光船「KAZU1」が沈没し、乗客乗員あわせて20人が死亡、6人が不明となった事故で、乗客家族らが運航会社とその社長に損害賠償計約15億円を求めた裁判が、13日札幌地裁で始まりました。
札幌地裁の元裁判官の内田健太弁護士に裁判のポイントを聞きます。桂田精一社長(13日)
◆民事初弁論に桂田被告が出廷した狙いは?
内田健太弁護士
民事の場合は、当事者が出廷すること義務ではないので、社長本人の誠実に対応しているという姿勢を見せたいという本人の希望があったのではないか
◆争点をめぐる原告と被告の主張
堀内大輝キャスター
一番の争点は『出航判断の是非』です。「知床遊覧船」の”運航基準”では風速8m、波の高さ1m以上で運航中止と定めていました。一方、当時の予報では風速15m、波の高さは2mなどと基準を超えていました。
《原告側の主張》
・そもそも知床遊覧船は、運航会社として乗客に対しての賠償責任がある
・桂田社長については「出航を中止すべき状況が明らかだった」にもかかわらず出航中止を指示しなかった
⇒個人としても『重大な過失がある』と主張
《被告側の主張》
・会社としては、賠償義務は争わないものの、金額が増えることについては「理由がない」として争う姿勢
・桂田社長については、天候が悪化したら引き返すという”条件付き運航”の判断に過失はなく、天候が悪化した際に船長が引き返していれば事故は回避可能だったなどとして、社長個人に『責任は無い』と主張
◆桂田社長の過失について
内田健太弁護士
一般論として、従業員の事故について社長が責任を負うケースは少ない。例えばタクシー会社でドライバーが事故を起こして、社長が個人的に責任を負うことはない。
一般論を前提に、“条件付き運航”という判断を社長が止めなかったことが不合理だということを、どれだけ立証できるか。
そもそも運航基準に“条件付き運航”なんて許されないという事情、あるいは船長の経験、知識に照らして「この船長に安全な判断を期待することはできない」という事情、こういった事情を原告は積み重ねて判断が不合理だということを立証できるかがポイントだと思います。
◆桂田被告が15億円を支払えない場合
内田健太弁護士
この種の場合、保険に入っているケースがある。賠償保険があればそこで填補される可能性がある。保険に入っていないと個人の資産を差し押さえていくことになるため、原告が裁判で判決を勝ち取っても、賠償の実現にはもう一段改ハードルがあるという印象です。
堀啓知キャスター
桂田社長は、業務上過失致死の罪ですでに起訴されていますが、刑事裁判の日程は決まっていません。今回の民事裁判とどう絡んでいくのでしょうか?
◆刑事裁判との関連
内田健太弁護士
もちろん民事と刑事、裁判は別ですが、民事は刑事裁判の進行を見ながら、刑事の判決が出てから民事の判決を出す方向で進めていくのではないかと思います。引き上げられる観光船「KAZU1」
乗客家族が起こした裁判は6月12日に2回目の弁論が開かれる予定です。