「危険運転致死傷罪」見直しへ“あいまいな基準”から数値基準を検討…飲酒運転で息子を奪われた母「立証困難だと言われないものに」
2025年02月20日(木) 20時51分 更新
不条理に人の命を奪う、悪質な危険運転。ただ、ドライバーへの厳罰を求める被害者遺族の願いに反し、危険運転致死傷罪ではなく、より刑の軽い「過失運転致死傷罪」として立件されることが少なくありません。
飲酒運転事故の被害者遺族
「過失なのか?ということ。これだけ悲惨なことを起こして」
こうした批判を受けて始まったのが、適用要件の見直しです。
鈴木馨祐 法務大臣
「危険運転致死傷罪の対象として3つの行為を規定することについて、審議をお願いするもの」
焦点は、アルコール濃度や走行速度の「数値基準」の導入です。
息子を飲酒ひき逃げで亡くした高石洋子さん
「きちんと罰することができない裁判を、どうやって子どもたちに説明したらいいかと思ったときにすごく悩んだ」
被害者遺族の思いに寄り添い、危険運転の防止につなげられるのか。「もうひとホリ」します。
「危険運転致死傷罪」は、飲酒運転など悪質で危険な運転を厳しく罰するため2001年に設けられ、最高で懲役20年の刑が科されます。
しかし、適用要件が「アルコールの影響で正常な運転が困難な状態」、「進行を制御することが困難な高速度」などとされていて、そのあいまいさや、適用の難しさが指摘されています。
2014年に小樽市で4人が死傷した飲酒ひき逃げ事件では、ドライバーの呼気から基準の3倍以上のアルコールが検知されたにも関わらず、スマートフォンを操作していた「わき見運転」として「過失運転致死傷罪」で起訴。
厳罰を求める遺族らが札幌地検に署名を提出し、ようやく危険運転致死傷罪への訴因変更を実現させました。
署名した人
「人の人生を終わらすくらい、悪いことなので、厳罰でお願いします」
『危険で悪質な運転に、適切に対処できていない』
こうした声の高まりを受け、2月10日、国の法制審議会で、危険運転致死傷罪のアルコールや高速度について、具体的な数値基準を設けるかの、議論が始まりました。
危険運転について詳しい弁護士は…
青野・広田・おぎの法律事務所 青野渉弁護士
「今までは正常な運転が困難な状態という非常に抽象的な基準だったけども、それが数値基準が入ることによって適用は非常にやりやすくなると思う」
江別市に住む高石洋子さんも、大切な人を飲酒運転で奪われた1人です。
息子(当時16)を飲酒ひき逃げで亡くした高石洋子さん
「会いたくて会いたくてたまらない。『拓那』という言葉を出すだけで、涙が出てきてしまう…。いま本当にこんなにきついと思わなかった」
先週、23回忌だった息子の拓那(たくな)さん(当時16)は、2003年飲酒ひき逃げによって命を奪われました。
ドライバーは、業務上過失致死罪などに問われたものの、判決は、懲役2年10か月でした。
20年以上にわたり飲酒運転やひき逃げに対する厳罰化を訴えてきた高石さん。
危険運転致死での立件が見送られて苦悩する被害者遺族を、数多く目にしてきました。
息子を飲酒ひき逃げで亡くした高石洋子さん
「私たちにとって『それはもう絶対危険運転ですよね』と思うところが、『いやいや違いますよ』と検察に言われてしまう状況で、結局また署名活動しなくてはいけないことにならないようにしてもらいたい」
高石さんは数値基準の導入について評価しつつも、基準に満たない場合に、危険運転致死傷罪として捜査してもらえなくなることなどを懸念。
議論を尽くすよう求める要望書をほかの被害者遺族と共に、鈴木法務大臣に提出しました。
息子を飲酒ひき逃げで亡くした高石洋子さん
「本当にもう署名活動はしたくない。署名活動しなくてもいい法律。危険運転致死傷罪はとてもすてきな立派な法律だと思う。
だからこそ立証が困難だと言われないものにしてもらいたいと切に願う」
〈現在の基準では、「危険運転致死傷罪」の適用はやはり難しいのか〉
▼千葉地裁の判例(2016年)
最高速度50キロのほぼ直線の道路を120キロで走っていた車が原付バイクに衝突し、1人が死亡。
ドライバーは危険運転致死傷罪で起訴されましたが、判決は「過失運転致死傷罪」など、懲役6年でした。
▼判決の理由
裁判ではこの運転が「制御が困難な高速度」に当たるかが争われました。
しかし、事故まで必要に応じて車線を変更しながら逸脱せずに走行していたことから制御が困難な速度には「当たらない」としました。
▼見直し案のポイント
政府の有識者検討会がまとめた報告書のうち、数値基準に関する部分です。
●アルコールについて
現在:「正常な運転が困難な状態」が適用要件
今回の焦点:呼気1リットルあたり「0.5ミリグラム以上」といった数値基準を設けるか
●速度について
現在:「進行を制御することが困難な高速度」
今回の焦点:「最高速度の2倍や1.5倍」などの数値基準を設けるか
悪質な運転の抑止力となるような基準が実現されるのか、注視していきたいと思います。