厄介者扱いの風が資源に…えりも町に風力発電の先進地・デンマークから『風のがっこう』代表スズキ氏が訪問、見えてきた課題と可能性
2024年11月06日(水) 20時14分 更新
24年前に近藤アナウンサーが取材した男性が、今、北海道えりも町の風に価値を見出しているんです。
再生可能エネルギーとして注目を集めている風力発電。その先進地、デンマークからひとりの男性が北海道にやってきました。同行取材すると北海道の可能性と課題が見えてきました。(HBCウェザーセンター近藤肇アナウンサー取材)
近藤肇アナウンサー
「どうもどうも、お久しぶりです」
新千歳空港の到着口の前で待っていたひとりの男性。
デンマークから来たケンジ・ステファン・スズキさん(80)。
私とスズキさんは、今回が24年ぶりの再会になります。
2000年、私はデンマークを訪れ、スズキさんが手がける風車を取材していました。
スズキさんは大学3年生の時に、福祉を学ぶためにデンマークに留学。
デンマークの魅力に惹かれてそのまま移り住み、風力発電システムを日本に普及させる事業を手がけました。
北海道の半分ほどの面積のデンマーク。発電量のおよそ半分が風力発電によるものです。
スズキさんは、1997年に「風のがっこう」を設立。デンマークを訪れた日本人に風力発電や環境についての研修を行っていました。
スズキさんが大切に持っているゲストブックには、老若男女、研修を受けた人たちからの感謝の言葉が詰まっていました。
スズキさんには、長年抱いていた夢がありました。それは日高地方の襟裳岬を訪れることでした。
「風のがっこう」代表 ケンジ・スズキさん(80)
「えりも岬は絶対来たいと思ってた。初めて来て、やっと夢がかなった」
スズキさんは、えりも町が強い風の吹く地域だと知っていましたが、なかなか訪れる機会がありませんでした。しかし今回体が動くうちにと意を決してやってきました。
「風のがっこう」代表 ケンジ・スズキさん(80)
「すごい風だ、びっくりしちゃう。風車の仕事30年やっててこんな風初めて」
えりも岬の年間平均風速はおよそ8メートル。10メートル以上の風が吹く日が年間270日ほどあります。
「風のがっこう」代表 ケンジ・スズキさん(80)
「こんなに風が吹いてるなんて想像つかなかった。うれしい。自然の宝庫」
えりも町には、風車が60基ほどあります。
さらに、現在えりも町に建っている風車のおよそ100倍の発電ができる風車を建てようというプロジェクトが、関西と関東の会社によって進められているということです。
えりもに恩恵をもたらす風について、町民はどう思っているのでしょうか。
漁師
「(風は)利用できるならしたが方いい」
町民
「屋根飛んだり停電になったりする。それがなければある程度の風はいい」
漁師
「風が吹きすぎると波が立って(漁に)出られない。あまり吹かないでほしい」
再生可能エネルギーになることはわかっていても、厄介者だという実感はぬぐい切れないようです。
スズキさんはえりも町長のもとを訪れました。デンマークでの風力発電の取り組みを町長に紹介する、それが今回の表敬訪問の目的です。
「風のがっこう」代表 ケンジ・スズキさん(80)
「10メートルの風が1年間に270日、そんなに吹いてるのかと。デンマークで10メートルの風が吹く日はない」
えりも町 大西正紀 町長
「町民は10メートルくらいの風なら吹いてる感じしない」
町長も、町民から厄介者扱いされていた風が資源になり始めて、それをうまく活用したいと思っているということです。
しかし...
えりも町 大西正紀 町長
「(風車設置に)一切町関わってない。(風車を)建てる場所がほとんど民地。町が知らないうちにポンポン建っちゃう」
えりも町の風車は、本州の会社などが民間の土地を借りて建てているものがほとんどで、電気を売って得た利益も地元へ十分に還元がされていないといいます。
町は3年前、風車を建てる事業者に届け出などを義務付ける条例を制定しました。
しかし、すでに建っている風車や、条例制定より前に国から認可を受けた風車を規制することはできず、町として設置に十分に関与できていないのが現状です。
一方デンマークでは、風力発電の電気を売って生まれた収入の一部が地元の住民に還元されています。
えりも町 大西正紀 町長
「風はあるんだけど知識がない」
「風のがっこう」代表 ケンジ・スズキさん(80)
「だからみんなで勉強しましょう」
風力発電を地元に供給するためには、送電線などの整備も必要になるため、スズキさんは、すぐに現状を変えることは難しいと考えます。
しかし、あきらめるわけではありません。
「風のがっこう」代表 ケンジ・スズキさん(80)
「風車とはどういうものかという教材で、小学生にはまだ早いかもしれない。中学校の理科の時間で勉強会をやってもいい」
えりも町で風を浴びたスズキさんは、子どもたちの勉強会や観光客のための資料を準備しようと意気込んでいます。
HBCウェザーセンター 近藤肇アナウンサー
「えりも岬にあるといいもの、アイディアありますか?」
「風のがっこう」代表 ケンジ・スズキさん(80)
「えりも岬にどれだけエネルギーがあるか知るのが大事。常にデータを見られる場所があるといい」
デンマークから風のまちを訪れたケンジ・ステファン・スズキさん。80歳にして、えりもに新しい風を吹かせようとしています。
風は無料で無限の資源、企業や住民みんなにとってメリットのあるやり方を議論して見つけていくことが必要です。
ケンジ・スズキさんは、来年の春もう一度えりもを訪れて、勉強会を開きたいと話していました。
デンマークの風力発電に興味を持った子どもがいたら、スズキさんは日本からの旅費を出してもいいと話しています。
デンマークでできたことは北海道でもできるはずです。